「一時はどうなることかと思ったぜ…ったく、今回も手掛かりなしじゃ、いつになったら襲撃が止むのやら…」
「ああ。早くなんとかしないと、被害が増えるばかりだ。そろそろ…お、おい!これを見ろ!」
「どうした?…これは…」
グルーディン村の南の森を歩いていた王立騎士団の2人は、地面に無数に散らばる黒い棒のようなものを見つけた。ひとつつまんで持ち上げると、それはモンスター生成ワンドだとすぐにわかった。
「犯人は、ここでこれを…?」
「おい、見ろ!こっちにもたくさん…」
「これは…すごい数だな、こ…待て!この方向は…」
「方向?…そうか!北にずっと続いているということは…」
ワンドは、×の字を描くように村に4箇所ある出口のうち、右下、つまり南東方向へ伸びる街道を数分歩いただけの場所に、大量に落ちていた。そこから点々とこぼれているワンドを目で追うと、それは街道を逸れて、まるで村を避けるように、村の外周の森を真っすぐ北に抜けようとしているようだった。
その方向には、もうひとつの街道があった。×の字の右上、北東方向へ続く街道だ。犯人は村を避け、森をショートカットして進もうとしているに違いない。
「これは…犯人は…」
「ああ、きっと間違いない!よし、いったん町に報告して、戻ったらこのワンドを追跡しよう」
「ああ!急ぐぞ!」
「おうっ!」
「…OK、戻っていったぞ」
「おっけー、よしよし、さて、これであとは、防衛戦にギルドまるごと遅刻したって雰囲気で無関係者っぽく村に戻るだけね」
「しっかし次から次へと、姫はよくこんなこと思いつくなあ」
「あら。まさか今からこの子を騎士団に突き出すわけにいかないし、この子悪い子じゃなさそうだし」
「まあ、そうなんだけどな」
「この子はブラックナイトの隠れ家も知らないみたいだし、次の町の防衛人数を増やすための誘導なんだから、一石二鳥じゃない?」
アデン王立騎士団が見つけたワンドは、マイが機転を利かせてバラまき直しておいたものだ。次に襲われる町を示唆しておけば、王国が広報を出し、それを見た冒険者は次の町の防衛に参加してくれるはず。次の町の安全を考えての判断だ。
「さて、あなたは怪しまれるといけないから、胸張ってしばらく堂々としててね?」
「どうどう?」
「そう。間違っても、自分が事件起こしましたなんて言っちゃだめよ?」
「わかった、オイラがんばる」
「良いお返事。さて、それじゃ村に戻りましょっか。お腹もすいたしね♪…、と」
マイはそう言うと村に戻ろうとしたが、足元を見て留まった。そこには、長めの紐に拍子木をいくつか吊るしたものが、切れて地面に転がっていた。それは、鳴子だ。マイは低い声で聞いた。
「…この鳴子、切ったのは誰かしら?」
「え?ああ、そいつは…」
「フォルっ!?」
ぎんっ!
マイは今度こそ本当の般若の面でフォルを睨みつけた。眼が白く光っている。
「いやいやいやいや、ちょっと待て!そいつは俺じゃなく…」
「チリムっ!?」
ぎんっ!
「ええっ!?いやいや、それはわざとじゃなく」
「…あ〜あ…」
ワセンは右手の人差し指を額に当てて、悩むようなため息をついた。もう止められない。マイの周囲で強大なエネルギーが上昇気流を作り出し、風が吹き始めた。
「…モンスター用の罠に人間がひっかかるなんて…、いつもあんなに森は注意して歩けって言ってるのに…!」
ゴゴゴゴゴゴゴ…!
「いや、だからそれは不可抗力で!」
フォルとチリムは必死に止めるが、マイは聞いていない。
「この、重要で、たくさん人が集まってるときに、鳴子を間違って鳴らすなんて…!」
「ごっ、誤解っ!誤解だから…!」
「問答無用ーー!そこへ直れぇぇぇぇぇ!!!!!」
ガラガラガラ、ビシャーン!
「ぎゃーーっ!」
かくして、事態はマイの計算どおりになる。アデン王国はすぐに広報を出し、グルーディン村に押し寄せた冒険者たちはそのままそっくり、次の町に向けて大移動することになった。
×の字の右上、北東方向へ続く街道の先にある場所。
グルーディオ領地の城下町、ケントの村へ。
そして、鳴子を切った犯人が、実はリザードマンがモンスター生成ワンドで召喚したスケルトンだったことがチリムの口から語られたのは、それから十数分後のことであった。