ジョーンズ:
君のような冒険者を見ると昔を思
い出すよ。わしも若いころは名を
鳴らしたものだ。
わしの剣は鞘に納まっていた時間
より、両手に握られていた時間の
ほうが長かったし、鎧は白銀に輝
く時間より、血で赤く染められて
いた時間のほうが長かったものじ
ゃ。なに、信じるも何も君の自由
だがね。
そんなわしが冒険をやめざるを得
なくなったのは、傲慢の塔に初め
て足を踏み入れたときの事じゃ。
そう、その名前が示すように、当
時のわしはまさに傲慢だった。
天の高さ、大地の広さを知らなか
った頃の血気盛んなわしは、向こ
う見ずにも傲慢の塔に挑戦したの
だ。わしの手に負えないモンスター
がいるなど、よもや想像もしなか
った。実に無知で無謀な話じゃよ
。
ドラゴンバレーのような場所でも、
恐ろしさを微塵も感じなかったわ
しが、傲慢の塔の中で始めて恐怖
と言うものを感じたのじゃ。まっ
たく歯が立たない強力な怪物たち
を目前にして、わしは自分の無力
さを痛感したのじゃよ。わしはそ
の高い代価として、足の自由を失
ってしまったのじゃ。今はずいぶ
んよくなって生活にさほど不便は
感じないが、全力で走るようなこ
とは二度とできまい。
勇気と無謀、自信と傲慢は区別し
にくいものなのじゃ。君もわしの
話をよく憶えておきたまえ。わし
のように自分に陶酔して、傲慢と
いう名の沼に落ちてしまわぬよう
に・・・。